” 「消費税をマイナンバーで還付」は可能なのか”という記事について思う

今話題の、消費税率の10%への変更に伴う軽減税率……が導入出来そうにないから飲食料品についてのみ2%分を給付にて還元する……という話。これにマイナンバーを活用してはどうか、という話が出たそうで、可能かどうか書かれた記事があった。

「消費税をマイナンバーで還付」は可能なのか セキュリティ、導入負担……

ただ、この記事が文字数の都合もあるのか、ふんわりとしか触れていないので、多少マイナンバー対応について学んだり関わったりしている立場から、勝手に補足しようと思う。

時々引用する情報は、主として総務省のマイナンバー紹介サイトに掲載されているものと思っていただきたい。

※末尾にTwitterでご指摘いただいた点について追記しております。記事を追加するかどうかは未定です。


■そもそも「マイナンバーカード」って何なのか
今年10月から、市民1人1人にマイナンバーを通知するために「通知カード」が届きます。これは全ての人に届きますが、「マイナンバーカード(正式名称:個人番号カード)」は来年1月以降に、任意で申請することで取得出来る別物です。身分証明書として使用出来るのは、ICチップが搭載され個人を保証する電子証明書が格納されたマイナンバーカードのほうです。

紹介サイトの該当部分

マイナンバーカードのICチップには、氏名、住所、生年月日、性別、公的個人認証用電子証明書しか含まれません。例えばお店で提示して、カードに購買情報が記録される等ということは不可能ということです。

紹介サイトの該当部分



■マイナンバーカードをお店で使えるのか
マイナンバーは使用目的が法律で制限されています。先日議会で、金融機関で預貯金の実態把握のために使用できることになったそうですが、まだ法制度的には「社会保障、税、災害対策」の3つに限られる上に、法律や自治体の条例で定められた行政手続でしか使用することはできません。つまり、現時点ではお店では使えません。何はなくとも、法整備が先に必要です。

紹介サイトの該当部分

お仕事されている方は、会社(雇用主)からマイナンバーについての教育を受けているかと思います。会社に自分&扶養家族のマイナンバーを提出することで、会社は自治体に提出する書類にマイナンバーを記載して提出することが出来るようになります。これは先の社会保障および税の実態把握のために用いられるわけですが、会社も単純に集めて保管して使用するわけではありません。収集方法・管理方法・使用方法・破棄方法について規約を取りまとめたり、担当者を決めたりする必要がありますし、万が一漏洩するようなことがあった場合、最悪実刑の恐れもあります(個人情報保護法より厳しい罰則です)。

このように、雇用者と被雇用者に限った話だけでも面倒くさそうですが(実際面倒です。担当者は皆泣いてます)、消費者とサービス提供者という話になると、それはもう大変で大変で仕方がないと想像がつきます。



■消費者のマイナンバーを、サービス提供者が扱うには
実際の運用の流れを想像してみたいと思います。よくありそうな、小売りチェーン店での様子です。

1.お客様がレジに商品を持ってくる
POSシステムで商品のバーコードを読み取って、小計額と税額を算出し、合計額をお客様に伝えます。ここまでは今までと変わりありません。

2.お金を支払うと共に、マイナンバーカードを提示する
このマイナンバーカードですが、そもそもマイナンバーを取り扱うには、上に記したように、「収集方法・管理方法・使用方法・破棄方法について規約を取りまとめたり、担当者を決めたりする必要」があります。当然小売りチェーン店でも対応しないといけませんが、収集を行う担当者はどうなると思いますか。レジを打つ従業員全員です。専任者だけでなく応援で店長や厨房の人も来るでしょうし、パートやアルバイトも沢山います。1人1人を担当者として定めて日々管理しないといけません。これは大変です。

もしかすると、ICカードリーダーが設置されていて、そこで読み取る場合は担当者はレジ担当者じゃなくてもいい……なんてルールになるかもしれません。というか、それしか無いですよね。

3.小売チェーン店は自治体に報告する
自治体に対して「いつ・誰が・幾ら買ったか」を報告しないと還付額を決定出来ないわけですが、誰が買ったかを示すのはマイナンバーですので、いつ・幾ら買ったかを管理するPOSシステムと、上記のマイナンバー用リーダーは連携させないといけません。リーダー&回線だけ個別に導入するレベルじゃダメってことですね。

小売チェーン店は法人税の納付のために売上高に基づく税額をデータ提出(電子申告)していると思いますが、それに加えて「いつ・誰が・幾ら買ったか」のデータを提出しなければなりません。自治体はそのデータを受け入れて更に国に申告するシステムの整備が必要になりますね。これまた大変、しかしこれは余談です。

このデータについて、小売チェーン店は飲食料品以外の商品も沢山扱っていますので、飲食料品だけの購入額と税額をデータにしないといけないはずです。従って、POSシステムの内部では「これは飲食料品、これはその他」と商品を区別して、購入額を決定する際に、個別に計算しないといけないわけです。あれ、これって……そう、品目別の軽減税率が導入される場合に必要なシステム対応と似ていますね。だったらストレートに品目別軽減税率を導入すれば、自治体や国は楽(コストかからない=国民も楽)なんじゃ。あれれ。



■記事について気になった点(1)
飲食料品というひんぱんに購入するものの支払いのたびにレジで提示することになれば、番号を盗み取られたり、カードを紛失する恐れも増える。
「番号を盗み取られたり」の部分について。
時々誤解されているようですが、マイナンバーそのものには、何も含まれていません。ただの数字です。

マイナンバーと紐づく個人情報は、自治体にしかありません(限定的に雇用者が所持することになりますが、上記の通り厳しい法律と罰則があります)。

自治体における個人情報の取扱については、今までと基本的に変わりありません。むしろ先の年金機構問題などを受けて、更にシビアになります。

また、マイナンバーだけでは、自治体であっても何もしてくれません。マイナンバーカードは身分証明書として使えますが、それは取得時に本人の証明が済まされているからです。通知カードは本人性の確認が取れない限り意味がありませんし、ましてやマイナンバーの数字だけでは何も出来ません。

つまり、マイナンバーが単体で流出しても、個人情報が漏れることはありませんし、活用方法もありません。

……現時点では、ですが。



カード紛失については大きな問題だと思います。生体認証なども一緒に導入できればまだマシでしょうが、今のところそのような話は全くありません。自治体は24時間営業しているわけではないので、夜間や休日の紛失時に機能を停止してほしいと連絡することは出来ないわけです。これは困った。最低でも、読み取る側に何らかの認証(カードとの間での情報の授受)が必要ですかね、これも実装が大変そうですが…… それでもなりすましは防げないわけですが。



■記事について気になった点(2)
マイナンバーを使ったポイント付与システムの導入費用を誰が負担するのかという問題もある。カードを読み取ってポイントを付与するリーダー/ライターや通信回線などを個人商店も用意しなければならないとすれば、かなりの負担になる。
現在決まっている内容(雇用者が被雇用者のマイナンバーを収集して云々)については、全額事業者が負担しています。そこから類推すると、これらについても事業者側の負担になるでしょう。

通信回線については、通常のインターネット回線でいいのか、自治体のLG-WANのような専用回線が必要なのか、まだ何も決まっていないので分からないわけですが、専用回線となると、これは色々と面倒なことになりますね。通常のネット回線を使うならば、電子証明書をインストールした端末からしかアクセス出来ない等になるのでしょうか。これも容易では無さそうです。そもそもPOSシステムどころかPCさえ無いお店も山ほどあるわけですし。お店の形態を取っていないサービス業も沢山あります。



■最後に
というかもう終わりにしましょう、書き出すとキリがないことがよく分かりました。しかし、これが実態です。

政治家さんも、識者の皆さんも、消費者の皆さんも、全員が関わることですので、紹介サイトのFAQだけでも眺めていただいて、それから議論や意見していくと、少しは前進するんじゃないかなあなんて思います。

なんだったら、総論だけでもいいです。これ読むと、思った以上に使いにくいものなんだな、ということが分かっていただけると思います。


■追記
記事公開後に指摘を受けたのですが、冒頭の「マイナンバー」については、(元の記事にならうと)マイナンバーカードと表記すべきでした。これは各種記事でも混同して使用されているようです。そもそもの話をすると、公的には「個人番号カード」と呼称されており、マイナンバーカードという言葉は公的ではありません。誤解なきようお願いいたします(私も)。

また、マイナンバーそのものと、個人番号カードについては、法的にも扱いに違いがあるとの指摘もいただきました。特に情報の受け渡しに関する例えの部分については、全く違った話になってしまいます。このへん(財務省案についての報道)このへん(PDF)を参考に学びを深めたいと思います。

今のところ実務としてマイナンバーにしか関わりが無いため、カードについての情報収集が不足していました。今後勉強し、実務にも活かしたいと思います。

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